目の病気 (14) iPS細胞を用いた加齢黄斑変性症の治研1
目の病気 (14) iPS細胞を用いた加齢黄斑変性症の治研1
当院は、内科・小児科・アレルギー科の診療所です。従って、目の病気については門外漢の立場です。しかし、iPS細胞の臨床応用で、ヒトで行われる世界で初めての治療が「加齢黄斑変性」への適応でした。
そのため、何とかこのホットなiPS細胞治療の概略を理解するために、皆さんと一緒に時間をかけて取り組んでみたいと考えました。
この「目の病気」シリーズの目標は、今回と次回のiPS細胞を用いた加齢黄斑変性の臨床研究をご紹介する為に、始めたシリーズです。 なんと(1)目の構造と仕組み、 (2)目の検査 から始めてようやく目的地にたどり着いた気分です。あるいはフルコースの料理なら、メインディッシュにたどり着きました。
(A) iPS細胞による臨床試験の開始動向
2013年3月28日、理化学研究所は「iPS細胞を用いた加齢黄斑変性症の網膜色素上皮細胞治療」に係る特許の実施権を(株)日本網膜研究所(2013年9月に(株)ヘリオスに社名変更)に許諾した事を公表しました。
またこれより先、理研は、2013年2月28日、「滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来網膜色素上皮シート移植に関する臨床研究計画」の実施に関わる審査を厚生労働省に申請したことも公表しており、この分野でのさらなる飛躍的発展が期待されます。
そんな中、2013年6月27日、iPS細胞(人工多能性幹細胞)が世界で初めて、人の加齢黄斑変性症の治療研究に使われることになりました。この臨床研究計画についての国の審査が実質的に終わり、来夏にも移植手術が行われる計画です。
期待は募るばかりで詳細な研究成果の公表が待たれますが、この機会に上記リンク先の「滲出型加齢黄斑変性に対する自家iPS細胞由来網膜色素上皮(RPE)シート移植に関する臨床研究」について少し理解をしておきたいと思います。。
(B) 滲出型加齢黄斑変性とは
加齢に伴って黄斑部の機能が低下する病気の中で、滲出型加齢黄斑変性は、下図の肌色部分である脈絡膜から血管が生じ、この血管から出血して網膜色素上皮細胞が障害(滲出型性に)され、網膜の黄斑部の凹み(中心窩)が盛り上がる事で、網膜剥離、網膜浮腫、網膜色素上皮剥離、網膜下・網膜色素上皮下出血などを呈し、視力障害をきたします。(下図)。
なぜ「変性」と言うかについては、出血の後、黄斑が萎縮することで黄斑部の機能と性質が変わってしまう事から変性と言っています。
その結果、症状としては、最も見ようとする視野の中心部で物が歪んで見えたり、小さく見えたり、暗く見えたりします。視力が急に低下することもあります。重症化して大きな網膜剥離や出血が起こった場合は、さらに広い範囲が見えにくくなります。
発症要因は、加齢や炎症、遺伝的要因などによる網膜色素上皮の劣化との関連が指摘されていますが、詳細は不明です。
(C) 患者iPS細胞由来の網膜色素上皮細胞の移植
患者本人の皮膚細胞からiPS細胞を作製し、それを網膜色素上皮(RPE)細胞に分化させ、シート状にして網膜の黄斑部に移植することで、痛んだ組織の再生を促し視機能を維持・回復させるという新しい治療法の開発を目指します。
それにはまず、患者の上腕部から直径4ミリ程度の皮膚を採取し、細胞培養して皮膚組織からiPS細胞を作製します。これを網膜色素上皮(RPE)細胞に分化させます。
さらに、移植に適したシート状に成長させ、その品質・安全性確認を行います(下図)。皮膚を採取してから網膜色素上皮細胞のシートが完成するまでに約10カ月かかります。
こうして作製した網膜色素上皮細胞のシートを、網膜下の新生血管を取り除いた後、網膜下へ移植します(下図)。
手術後1年間は、毎月または2カ月に一度、視力検査、眼底検査、画像診断などの検査を行います。その後も年に1度、合計4年間経過観察を行い、安全性の確認や視機能に対する有効性の評価を行います。
2016年8月には、ブラジルのリオデジャネイロでオリンピックが開催されますが、その次の東京オリンピックまでには今回の臨床試験の評価結果が公表される事を期待しましょう。
(D) 対象患者の募集
朝日新聞デジタルによれば、理化学研究所は2013年8月9日からこの臨床研究に関する特設サイトを開き、対象患者の募集を開始しました。